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仙台高等裁判所 平成2年(ネ)61号 判決 1992年1月23日

控訴人 有限会社 協和印刷

右代表者代表取締役 稲垣元英

右訴訟代理人弁護士 八島淳一郎

右訴訟復代理人弁護士 三輪佳久

被控訴人 加藤金男

主文

一、原判決中、被控訴人が控訴人会社の取締役、代表取締役であることの確認請求を認容した部分を取り消す。

被控訴人の右請求を棄却する。

二、被控訴人のその余の請求に対する控訴人会社の本件控訴を棄却する。

三、訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、控訴の趣旨

原判決を取り消す。

(本案前の申立)

昭和六〇年二月二五日の臨時社員総会決議不存在確認を求める訴えを却下する。

(本案の申立)

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二、当事者双方の主張は次に付加訂正するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、原判決三枚目裏九行目と一〇行目の間に行を設けて「前記のとおり、被控訴人は、控訴人会社の社員ではないから、本件決議不存在確認請求の訴は訴の利益を欠き当事者適格を欠くので、訴却下されるべきである(妨訴抗弁)。」を加入する。

二、同枚目裏末行の「六〇年二月二五日ころ」を「五九年一一月二九日もしくは同年一二月四日」に訂正する。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因一記載の事実(被控訴人及び後藤が出資口数各一〇〇〇口の持分を有する社員であることを除く)は当事者間に争いがない。

二、被控訴人の辞任について、

1. 原審証人後藤清人の証言により真正に成立したものと認められる乙第四及び第五号証、原審証人後藤清人、当審証人高橋隆雄の各証言、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は、昭和五九年一一月二九日、高橋隆雄、中条達夫、後藤清人らと会合した席上で、社長を辞めたいと述べたこと、同年一二月四日に被控訴人宅を訪問した会社従業員後藤清人に対し取締役辞任届を渡し、同行した中条達夫から、退職慰労金として差出された帝国インキ株式会社振出にかかる金額三〇万円の小切手を受取ったことが認められる。後藤清人は、原審における同人の証言によれば、控訴人会社の総務、経理一般、労務管理を担当する従業員であることが認められ、右証人の証言、原審証人中条達夫、同高橋隆雄の各証言によれば、中条達夫と高橋隆雄が控訴人会社の幹部職員として被控訴人とともに会社経営に関与する立場にあることが認められ、右のように辞任届が中条の目前で後藤に提出されたほか、右各証言によれば被控訴人から取締役辞任届が提出されたことが後藤または中条から高橋隆雄にも報告されたことが認められる。以上によると、被控訴人提出の取締役辞任届は控訴人に受理され、昭和五九年一二月四日被控訴人は控訴人会社の取締役を辞任したものであると認めるを相当とする。

2. もっとも、×の抹消線、の印、「一二月七日取消」の記載の各部分を除いて成立に争いがなく、右各部分につき原審における被控訴人本人尋問の結果により被控訴人が記載したものであって、真正に成立したと認められる甲第四号証、原審証人後藤清人の証言、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は、翌一二月五日に中条達夫経営にかかる帝国インキ株式会社に行って右小切手を返し、その後に後藤清人に電話して辞任の意思は撤回するから役員改選の登記はしないよう申入れ、更に同月七日から一〇日までの間に、後藤に対し辞任届の返還を求めたこと、後藤は右要求により被控訴人に辞任届を返還したことが認められるが、前項認定のような事実に徴すると、右のようなことが認められるからといって、辞任がされなかったとはいえないし、又それだけでは瑕疵ある辞任の意思表示があったともいえないので有効に取消されたとは認め難い。また、原審証人後藤清人、同中条達夫、同高橋隆雄の各証言によれば、辞任届を被控訴人に返還したのも後藤が中条や高橋に相談せずに独断でなしたものであることが認められるから、辞任撤回(取消)につき控訴人会社がこれを承認したと認めるわけにもいかない。成立に争いのない甲第六号証、原審証人高橋隆雄の証言によれば、被控訴人が所持していた会社代表者印、約束手形帳、小切手帳を高橋隆雄が被控訴人から引渡しを受けるにあたり、昭和五九年一二月一七日、高橋が被控訴人に対し、高橋において代表取締役の職務代行をさせてもらうことにしたが被控訴人に一切の迷惑をかけないことを誓うという趣旨の誓約書を差入れたことが認められるが、これは、原審及び当審における右高橋の証言によれば、被控訴人の取締役辞任により代表取締役が欠員となるので、次の代表取締役が選任されるまで高橋において被控訴人の名義を用いて代表取締役の職務を行うためのものであることが認められるから、この誓約書により、控訴人において、被控訴人が代表取締役の地位に留まることを承諾した証左であるとすることはできない。原審における被控訴人本人尋問の結果中これに反する部分は右高橋隆雄の証言と対比して措信できない。

3. したがって、被控訴人は取締役辞任により代表取締役の地位も失ったと認めざるを得ないから、取締役、代表取締役の地位の確認を求める被控訴人の請求は理由がない。

三、総会決議等不存在について

1. 成立に争いのない乙第一号証及び被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は出資口数一〇〇〇口の持分を有する控訴人会社の社員であることが認められる。もっとも、原審証人高橋隆雄、中条達夫、池町昌之(第一回)の各証言によると、控訴人会社の出資口数二〇〇〇口について現実に出捐したのは高橋隆雄経営にかかる株式会社リューバック産業であること、その経緯は、池町昌之が代表取締役の「有限会社印刷の仙台商会」が経営不振となって、大口の債権者である帝国インキ株式会社の代表取締役中条達夫と株式会社リューバック産業の代表取締役高橋隆雄が、「有限会社印刷の仙台商会」の機械設備をそのまま使用して稼働できる新会社を作って右会社の債務を引受けさせることを企画し、両名が取引関係で知合った被控訴人と、中条の友人である後藤清人に対し、社員となるよう要請し、その承諾を得て定款に記載し、被控訴人と後藤には出資の現実の負担をさせないことにしたものであること即ち株式会社リューバック産業の右出捐は同社が被控訴人と後藤に立替えて払込したものであると認められる。

このように、被控訴人は控訴人会社の出資口数一〇〇〇口の持分を有する社員であるから、臨時社員総会決議不存在確認を求める訴えの利益があり当事者適格があるといわなければならない。

2. 控訴人会社の社員は被控訴人(持分一〇〇〇口)と後藤清人(持分一〇〇口)であるところ、甲第三号証の四には、昭和六〇年二月二五日、控訴人会社本店で総社員二名(被控訴人及び後藤清人)出席による臨時社員総会が開かれて、被控訴人ほか一名が取締役を辞任しまた監査役も辞任したので、稲垣元英ほか四名を取締役に、及川寿を監査役に各選任することを全会一致をもって決議したとの記載があり、証人中条の証言にはこれに沿うような部分があるけれども、同証言は弁論の全趣旨に照らし措信できず、また原審証人後藤清人、中条達夫の各証言、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、同号証は中条達夫において、被控訴人及び後藤清人に無断で、擅に作成したものであって真正に成立したものでないことが明らかであるから、同号証をもって控訴人会社主張のような総会決議がなされたことを認めるわけにはいかない。

他に控訴人会社主張の総会決議のあったことを認めるに足る証拠はない。

3. 控訴人会社において、昭和六〇年二月二五日取締役会を招集、開催し、代表取締役に稲垣元英を選任決議したことを認めるべき証拠はない。

四、以上のとおり、被控訴人の本訴請求のうち、被控訴人が控訴人の取締役、代表取締役の地位にあることの確認を求める部分は理由がないので棄却すべきであり、昭和六〇年二月二五日の臨時社員総会、取締役会の決議不存在確認を求める部分は認容すべきであるところ、地位確認請求についてこれを認容した原判決は同部分については失当であるから、同部分の原判決を取り消し、同請求を棄却し、被控訴人のその余の請求に対する本件控訴は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三井喜彦 裁判官 齋藤清實 小野貞夫)

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